BLACK AND BLUE — strangers key visual

BLACK AND BLUE —

都市に身を置いていると、意味や用途が付与されていない状態に触れる機会は殆ど失われている。何も無い空間や余白は、計画や効率の観点から直ぐに役割を与えられ、何も無い状態のまま維持されることは無い。存在しているだけで十分である筈の空間や物も、説明や価値を求められ、意味の網の中に組み込まれていく。その過程で、存在そのものが持っていた静かな力は見えなくなっていく。

人類が現れる以前の環境には、目的や意図に回収されない広がりがあった。地形や植生は其処に在り、何かの為に存在していたわけではない。其れらは役割を与えられずとも、周囲との関係の中で成立していた。その感覚は、現代の生活では殆ど再現されない。視界に入るものは常に意味を伴い、解釈され、評価される対象となる。現代に於いて、意味を持たないまま存在する状態は、意識の外に追い遣られている。

「意図的に何も無い状態を作る」という行為は、物理的に空白である事以上に、意味が立ち現れる契機を減らすことと同義と云える。何かを置かないことが表現として読まれてしまう状況では、空白ですら意味を帯びる。その中にあって透明な硝子は、主張を持たず、背景に融け込む性質を持つ素材として機能する。視線を引きつける中心ではなく、周辺で作用し、空間全体の輪郭を弱めていく。

其の透明な硝子は確かに物質であり、形や重さを持つが、配置された瞬間に存在感を薄める。見えている筈のものが意識から外れ、意味を担っていた対象が背景へと退く。その硝子の奥に映る人の輪郭もまた、空間の中で曖昧になっていく。それは、自然を長く眺めているときに風景が対象として意識されなくなり、ただ広がりとして感じられる状態に何処か似ている。物体は消えていないが、意味としては消えている。

この感覚は、「記憶」の性質とも重なる。経験はそのまま内部に保存されるのではなく、欠落や歪みを含みながら沈殿し、出自の分からない感覚として残る。硝子が光や色を僅かに変え、その変化が意識されないまま背景に融け込むように、其の人の経験自体もまた意味を伴わずに内面へと融けていく。Ribbed Glassが視点や外光によって像を変化させるように、人の記憶もまた固定された形を持たずに、関係性の中で都度形を現す。

硝子作品の制作過程に於いて、Ribbed Glassを用いた制作を通して、内部が空洞でありながら光と視線の関係によって立体性が生まれる現象に触れ、記憶もまた内側に実体を持たず外界との関係で成立しているのではないか、という問いに至る。彫刻では「石(Stone)」の形を採用し、建築空間や自然環境との調和と対比を意識した。平面作品では「空(Sky)」をモチーフに、形を持たず変化し続ける存在と記憶の性質を重ねた。

生活環境に於ける調和を企図した家具の形態、即ち「硝子照明(Infinity Light)」と「硝子机(Glass Table)」の制作もまた、この不確かさを日常の中に繋ぎ止める試みである。硝子を透過し、金属の鏡面と干渉しながら輪郭を曖昧に暈す照明の光(インフィニティー)は、固定された記録を持たず、現在の身体に於いてその都度生成される記憶の像そのものを映し出す。Ribbed Glassの重なりによって内部に収めた色褪せた記憶の欠片の図像を仄かに揺らがせる硝子の机は、意味や役割を剥ぎ取られた物質が背景へと退き、風景の広がりへと融けていく幻影を映し出す。これらは単なる用途の道具ではなく、日々の光に触れ、傷を刻みながら、解釈や評価の外側にある静かな存在の在り方を、現代の余白として空間に灯し続けていく。

A weekend fading into a navy blue sky.

Information

Exhibition
BLACK AND BLUE | Collection 01
Venue
Spiral Garden Atrium & Gallery
Dates
2026.6.18-6.22